この記事を書き始めるにあたり、少しだけ心配していることがあります。
そもそも「ゲームブック」という言葉の響きに、今の若いゲーマーの皆様はピンとくるのでしょうか。
「昔はね、選択肢ごとに『〇〇ページへ進め』って指示されて、鉛筆とサイコロを片手にページをめくって冒険していたんだよ」なんて語り出せば、古き良き時代のノスタルジーとして片付けられてしまうかもしれません。
現代の10〜20代ゲーマーにとって『ゲームブック』はノスタルジーではなく、逆に『未知の最先端ローグライク』として認識される可能性さえあります。
そんな絶滅危惧種(もしくは絶滅した?)のアナログゲームの魂が、令和の最新環境に、まったく新しいプレイ体験として見事に蘇りました。
本題に入る前に、私のゲーム遍歴を少しだけ。
私は『オーディンスフィア』や『グリムグリモア』が特にお気に入りの、筋金入りのヴァニラウェアファンです。
そんな私が、ヴァニラウェア出身の西村氏が6年もの歳月をかけて作り上げたという本作をスルーできるはずがありません。
このゲームが内包する「メタフィクション的な焦燥感」と、「徹底的なアナログの手触り」。
その魅力を紹介していきます。
ヴァニラウェアの血脈と、画面端で揺れる「パネリ」の引力
体験版では、戦士「ハヴェロック」か魔法使い「パネリ」のどちらかを選んで冒頭の30分程度をプレイできます。
私は迷わず魔法使いを選んでゲームをスタートしたのですが、開始早々、完全に目を奪われました。
画面の右下で、パネリがゆらゆらと動いている。
ただそれだけなのに、ずっと眺めていたくなる凄まじい引力があります。
現代のゲームグラフィックは進化し続けていますが、3Dがリアルすぎると少し違和感を覚えることもありますし、ドット絵は味わい深い反面、少し物足りなさを感じることもあります。
その点、本作のパネリはあまりにも「完璧」でした。
キャラクターの微細な息遣いや服の揺れ一つひとつに、確かな質量と体温を宿しています。
メガネの傾き、帽子やコートの質感、薬瓶を持つ指先。
気がつけば、マウスを動かす手を止めて彼女のモーションをじっと観察してしまっていました。
鉛筆とサイコロが支配する「ファンタジー」の原風景
本作のインターフェースは、どこからどう見ても「本」です。
ページをめくる心地よい紙の擦れる音。
無造作に置かれたキャラクターシート。
ダメージを受ければステータスの数字が消しゴムでゴシゴシと消され、鉛筆のカリカリという音と共に書き直される。フルボイスで語りかけてくるゲームマスター(案内人の老師)の渋い声に耳を傾けながら、手探りで選択をしていく。


この徹底したアナログ演出を見せつけられた瞬間、頭の奥底に眠っていた記憶が猛烈にフラッシュバックしました。
――ガキのころ、自由帳に鉛筆で迷路や選択肢を書きなぐり、「10ページにすすめ!」なんて自作のゲームブックを作っていた、あのころの記憶です。
「そうそう、我々が恋したファンタジーの冒険って、こういう泥臭い手触りの中にこそあったよな」
と胸が熱くなってしまいました。
戦闘システムも、運と戦略が絶妙なバランスで絡み合っています。
「攻撃」「魔法の矢」「睡眠」といった手札を、装備の残り使用可能回数と相談しながら切っていく。
例えば、睡眠魔法で敵の動きを封じ、アイテムの「燃料のフラスコ」を投げ込んで爆発で大ダメージを狙う……といったTRPGならではの快感です。


しかし、ゲームブックの要はなんといってもサイコロ。
「ここで1さえ出さなければ勝てる」という絶対的有利な場面で、見事に「1」を出して頭を抱える。
この理不尽な確率との対話こそが醍醐味であり、乱数に泣かされるゲーマーの業でもあります。
とはいえ、そこは現代のゲーム。
「直前のページからやり直せる」という優しい巻き戻し機能が用意されているため、理不尽な運ゲーで完全に進行不能になることはありません。
このあたりの遊びやすさのチューニングは非常にスマートだと感じました。
「現実」と「本の中」が交差するメタ的な没入感
さらに本作をただのノベルゲームから一段引き上げているのが、「メタ要素」の存在です。
プレイ中、突如として「画面の前にいるプレイヤー(現実)」の3分以内に、「本の中(ゲーム内)」のトラブルを解決しろ、とリアルタイムで要求される場面が訪れます。
この、読者である私と本の中のキャラクターたちの境界線が曖昧になる感覚、その没入感と心地よいプレッシャーはたまりません。


スリの双子に出会った際、「事情を尋ねる」「金を渡す」「戦う」といった選択肢が提示され、こちらの出方によって本の世界の反応が細かく変化していきます。
30万字以上にも及ぶらしいテキストが、プレイヤーの選択によって血肉を得ていく感覚。
これこそ極上のロールプレイングです。


唯一の惜しい点:全画面表示への切実な願い
どれほど気に入った作品でも、気になった点は正直に書いておきます。
現在の体験版を遊んでいて、個人的に最も「もったいない!」と感じたのが、ウィンドウサイズ(解像度)が固定されている点です。
私のメイン環境であるウルトラワイドモニターで起動すると、こんな状態になってしまいます。


広大なデスクトップ画面の真ん中に、ポツンと浮かぶ小さな魔法使い。
重厚なオーケストラサウンドが響き、あれほど美麗な手描きイラストが動いている。
だからこそ、現実のデスクトップ背景なんて見えないくらいの大画面で、この世界にどっぷりと浸からせてほしい。
フルHDサイズの引き伸ばしで構わないので、製品版ではどうか「フルスクリーン表示」に対応してほしい。
総評:紙の質感と共に、原点へ
少し惜しい点はあるものの、本作はアナログゲームの泥臭さと温かみを、最新のデジタル環境へ見事に落とし込んだ名作の予感がします。
サイコロの出目に一喜一憂し、鉛筆の音に耳を傾け、画面の端で動くパネリに心を奪われたい方は、今すぐウィッシュリストに登録しておくことを強くおすすめします。
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